『守らない事が最大の防御』
合気道など護身術では、腕を引っ張られたらそのまま引っ張られるままにして相手の体勢を崩すといった技法があります。
私達には本能的に自分を守ろうとする自己防御本能が備わっていますが、現代社会では時にそれが行き過ぎた心理的自己防衛に発展してしまう事があります。
心理学では「自己防衛機制」とよんだりします。
いろいろな例がありますが、多くは、苦しい体験、経験から逃れるために、この苦しみに伴う感情や思考、欲望などを無意識領域に追いやってしまい(抑圧)、苦しい状況に立たされた時、この無意識的抑圧から無自覚に何かしらの行為や反応をしてしまうパターン。
簡単な例としては、「子供がお母さんから叱られた経験から、再び苦しい状況に陥った際、くどくどと言い訳をする」といった感じです。
このような状態がさらに進むと、単なる言い訳からこじつけの合理化に変化することがあります。
他には、苦しんでいる状況から感情と思考が分離しているために、他人事のような発言周囲からは明らかに自分の母親を憎んでいる様に感じられるにもかかわらず、「客観的に見たら私が母を憎んでいる様に見えるかもしれない」と平然とした様子で言ったりするかもしれません。
つまり自分の本当の感情「母を憎んでいる」という状況から逃避して自覚しない様に振る舞っている。
誰しも、無意識の中に過剰な自己防衛が働いている事はあると思います。それによって自分の苦しみを手放せないばかりか、この自己防衛が歪んだ思考や感情の表現、行為に結びついた場合、人間関係をややこしくしてしまう。
しかし本人はそれに気付いていないからさらに厄介・・・ということになってしまうわけです。
セラピストやカウンセラーは時に、実はこういった自己内の防衛機制に気付かず、つまり癒されるべきは本人
であるにもかかわらず、苦しい経験を経て来たという記憶の元に
「癒す仕事につきたい」=『癒したがり屋さん』
にであることが多いのです。私も例外ではありません。
このような場合、本人は癒しているつもりで、実は
『クライアントを癒しているつもりで自分が癒されている』
『クライアントへの善意の押し売り』になっていることもしばしば。
それが悪いと言っているわけではありません。ただ、そうしている自分が何処かにいるかもしれないという事に気付き、その大元がなんであるか意識に持ち上げる努力は非常に大切であるということです。
自分の中の闇を綺麗なもので覆い隠したままこの仕事を続けるのならば、それは偽善になってしまいます。
私は過去いろいろなワークショップで、「私はカウンセラーです」「ヒーラーです」と胸を張って
「私はこういうスキルを持っています」「こんな問題を抱えた人を癒しました」とおっしゃりながら、最後にはご本人の胸の深い部分にあった闇に気付いて泣き崩れるシーンを何度か見てきました。
また、私自身も同様の経験をしてきています。
カウンセラーやヒーラーだという肩書き(レッテル)を生きる事で、本当の自分の苦しみから逃げ、どこかで虚勢をはっていたわけです。
カウンセラーやヒーラーだけでなく、聖職者だろうが教授だろうが、医者だろうが、どんな人でも同じで、みんなそういう事を乗り越えてはまた気付き、ぶつかりを繰り返していきます。
なかなか終わりはきません。
もしそれが終わる時が来るとすれば、それは完全に防御を外してありのままの自分(本物の自分)でいられる時です。
心の闇を守る(隠す)必要が無くなった時こそ本当に強いといえるでしょう。
この話は一般からすれば極論的な話です。
1997年ペルーの日本大使館人質事件の事で、ある牧師さんがこのようなお話をしていました。
牧師さんは同業者を悪く言うつもりは無いけれど、現実としてたしかにこういうことだと。
『人質の中にはカトリックの神父、プロテスタントの牧師もいました。犯人達の中にはキリスト教信者が多かった。
したがって、神父と牧師は最初のうちに解放されました。しかし神父は自主的に人質として残りました。
一方牧師は出てきました。この違いなんだかわかりますか?』
この話をしてくださった牧師さんがご自身を例えにしておっしゃいました。
『僕は牧師だから、自分が死んだら家族は? 教会は?信者さんは?・・・守らなきゃいけないって思うものがたくさんあるんですね。
カトリックの神父はそれが無い。だから人質が全部解放されるまで死を覚悟して残ったわけです』
確かに、カトリックの神父はすべてを神に預けています。家族を持たず、親兄弟でさえ神の物であって自分の物ではありません。
これを愚かと捉えるか、素晴らしいと捉えるかは価値観の違いであり、正解はありません。
ただ、マザー・テレサやガンジーの様に、守る物が少なければ少ない程、自分を捨ててなお本物の自分でいられる強さがあるのではないかと思います。
「あなたは何を守ろうとしているのですか? そして何があなたをそうさせていますか?」